10年前の今月に北海道から上京して参りました。
当時まだ25歳になる年でした。今年で35歳です。
イラストレーターになりたい!という漠然とした憧れ一つで勤めていた会社を急遽辞め、セツ・モードセミナーで絵の勉強をするために来てしまいました。
当時のぼくは「10年後には玄光社さんのイラストレーションファイルに名を連ねていたい」という希望がありましたが未だ叶わず。ずいぶん時間かかってます(笑)。

10代をあんまり健やかに生きて来れなかったから、20代で突然広がった世界に目が眩んだままやってきた感じで、「なりたい職業」は決まっていたけど、「その職業でやりたい事」が見えてなかった。
何となく自分は絵が描けて、何となく漫画家になりたいな〜(漫画書いたこと無いけどw)で、何となく専門学校入ったらイラストを仕事にしている人が先生で、じゃあ自分も!っていっても地元ではそんな可能性にはありつけなくて、でもなりたいからとりあえずグラフィックデザイナーから(てゆうかグラフィックデザインて何?)って感じのくせに運良く就職してしまって、まったく考えのないスタートでしたからできてなくて当然なんです。

中身の無い行動に実がつくはずも無く、思えば空振りなことばかりでした。
あの時は言語化できなかったけど、所詮ぼくは地元の印刷会社時代に先輩・上司から与えられた職能にすがっていただけで、自分からものを生み出すことの重大さと意味を全く分かっていませんでした。
アルバイトの仕事も、イラストを描くということも、もっと言うなら自分の力で生きることの意味もわかっていなかった。

それでもぼくのやる気だけに応えてくれた人はたくさんいて、仕事として発注してくれたり、展示会の参加に誘ってくれたりして、どうにかイラストレーターという体面を保って来れたけど、やっぱり自分を誇ることができず、友達や同業の活躍に焦るばかりでした。
結局のところぼくは実家や会社という隠れ蓑のおかげで直接目にしてこなかった、「現実に無力な自分」と「長らく背負ってきてしまった劣等感の固まり」に一人で東京に来たことでいよいよ目を逸らせなくなりすっかり自信を失ってしまってました。
そして全く絵が描けなくなってしまった。
それでも仕事はやれたけど、この先の展望がまったく見えず、作品を作ることも、ファイルを持って営業したり人に見せることも出来なくなっていて、おまけに当時勤めていたアルバイト先が急遽閉店することが決まったこともさらに追い打ちで。。。

そうなると、ただただ自分が情けなくて「こんなに何にもできないのか。時間もお金もかけてきたのに何やってんだろう…」と落ち込むばかりで。
だからって辞めるという選択だけはしなかった。できなかった。
続けてきたことの見栄もあったけど、与えてもらったカードが無くなって、いよいよ自分のカードで勝負しなきゃいけない時が来たんだ、というような感じもしていた。
でも自分の持ち札ってそんなに頼りになるのか?
もし今辞めたらこういう苦しみからは開放されるけど、やらなかったことを残りの人世あと何十年引きずって生きていくことになるんだ?
それは絶対にいやだ、って。

いつも何となくの繰り返し、いつも“それらしいもの”ばかり。
“それそのもの”に飛び込んだことなんて一度も無かったから。
初めて自分で決めたことなのにこれを失ったらもう東京にいれないし、地元にだって帰れない。自分の居場所はもうここしかない。

昔は版画風な絵を描いていたけど、それも人から教わった技術と流行が見せてくれたデザインの延長線。
職能を越えて自分だからこそのやり方を見つけないと、この先へは進めない。
それで画材も画風も変えて、本当に最近になってやっと自分らしく描けるようになってきました。
といっても基本的にはペンで線を引いてるだけなんだけども。
でも小賢しい技術で繕わずにやれるやり方はとてもシンプルで。
そして自己評価の縛りから外れてみたら、周りの評価は思いのほか良くて、そうしたら自信もついてきて。
30代を迎えてやっぱり自分はこの世界の人でありたい、この人たちの同業で、仲間でいたい。
そう思うことが自分を押し進めてくれることに気がつきました。
そして自分の持っていたカードは自分一人で作ったものじゃなくて、前の会社や友達、東京に来てからの先輩や友達、クライアントさん、その他たくさんの出会いにずっとずっと見守られながら出来上がったものだったんだなと。

良いことも悪いこともたくさんあったけど、きっと自分も同じように良い思い悪い思いをたくさんさせてきただろうし、それでもたくさんの仲間や友達、クライアントさんに胸を張っていられる人でありたいと思えるようなところまでは来れました。
前に「東京はよそ者が勝手に夢持ってやって来て、勝手に街を作り替えていくのが理不尽」といっている東京人のブログを読んだ手前こんなことを言うのは憚られるのですが、でもそういう人たちと巡り会わせて気付きを与えてくれた東京にとても感謝しています。
そしてこれからもたくさんの人や出来事に出会い、学んでいきたいと思います。

そんな気持ちで描いてみました。


前置き長かったね。