旅するパティシエ、旅する本屋の書籍『旅するパティシエの世界のおやつ』のイラストを担当いたしました。発行はワニ・プラス、発売はワニブックスから11月20日より発売しています。


僕が駆け出しの頃からお世話になっている編集者・鈴木英嗣さんの企画「旅するパティシエ、旅する本屋〜世界の郷土菓子を巡る旅」で、鈴木さんの奥様のパティシエ・文(あや)さんと二人で世界中を旅してその国のお菓子を知り、できれば現地の人に作りかたを教えてもらおうという飛び込み取材の企画でした。



微力ながら旅のお手伝いをさせてもらいまして、旅行記ブログのキャラクターイラストなども制作しました。
そして今回は久しぶりにイラストマップ作成で腕を振るいましたよ。




本当に飛び込み取材してる!

立ち寄った国が必ずしも英語圏ではないにも関わらず、果敢にも取材を申し込んでは断られ、それでも応じてくれる人がようやく見つかった時には読んでいるこちらも嬉しくなったものです。そうして体当たりで持ち帰ったレシピは買ってきたお土産よりずっと価値のある、まさに知恵の果実!

名前しか知らない国の実態と生活

観光でホイホイ行けるような所ではない、ちょっと緊張のある国でも生活はあり、お菓子もある。WEB連載ではその国での思いや、お菓子や人との出会いまで細かく物語が綴られていましたが、実際に仕上がったこの本でも各国が歩んでいる決して明るくない現実にもスポットを当てることでお菓子が伝わってきたことの意味を考える「お菓子の世界史」のような書籍です。ぼくのヨメ様が見本誌を見て「歴史も文化も違うのにどこの国にも甘いお菓子があるなんて不思議だね」と言っていたのが印象的でした。

「旅行体験」に意義を持たせるという試み

編集者の鈴木さんが再三言っていたのが「メディアなどの思惑に則って消費して帰るだけの旅は旅なのか?」「旅エッセイなどに触発されて無計画、無目的な自分探しの旅人に危機感を感じる」でした。
旅が大好きだからこそ、ただただ情報として消費されていくだけで良いのか?「話題だから」見て「名物だから」食べて「売ってるから」お土産を買う。全て誰かからの、とりわけメディアの情報を確認するだけの作業が旅とされて、レジャーとして消費・浪費されていくのを見ていられない。だからこそ目的を持って”旅を作る”ことに挑戦したいと何度も言っていました。

旅するパティシエの冒険

この本の著者、旅するパティシエ・鈴木文(あや)さん。世界一周出発前に初めてお会いしました。
元・シェフパティシエという経歴を持ちながらも国内でしのぎを削る道に興味が持てない、それよりも自分の扱ってきたお菓子の本当の姿を見たい、と夫に負けず劣らず旅にかける情熱を語ってくれました。文さんもやはり「コンテンツとして消費されて終わるだけのお菓子を提供する業界」に危機感を持っているようでした。そんな思いから旅を決意した彼女ですが、旅行中の連載ブログを読むとわかりますが、初めは予想以上にうまくいかない企画にかなり折れそうになっていたようです。それでも続けて一冊の本にまとめることができたのは、目標が決して夢想ではなかった証ですね。


触れているものの正体を知るところから始まる

日本ではインスタ映えなどと称されて、いいだけ写真を撮ってろくに手をつけず、消費すらしない消費者が現れたという話に倫理観が疼くことがあります(実際に出会ったことはないけど)。ぼくも昔は飲食店で働いていたので、大量に廃棄せざるを得ない残り物には心を痛めてきたものでした。
今目の前にあるものがなぜ目の前にあるのか、知らなくても生きていけるけど、知ることで初めて世界の広さと深さを認識できる。SNSで発信している先の「世界」を考えるきっかけの一つになる本だと思います。影があるからこそ本当の光が見えるもの。